ヴァントのブルックナー解釈の原点を聴く(1971年録音)

ブルックナー/交響曲第8番
ギュンター・ヴァント(指揮)
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
1971年録音(ライヴ)

1971年 ケルンでの《交響曲第8番》を聴く

ギュンター・ヴァントのブルックナー演奏というと、NDRやベルリン・フィルとの晩年の円熟した名演がまず想起されるが、そこに至る以前、彼がどのようにブルックナーと向き合っていたのかを知るうえで、1971年のこの交響曲第8番は極めて重要な記録である。

この演奏は、ケルン市音楽総監督としての活動期に、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団と行われたライヴ録音で、彼のブルックナー解釈の原点を伝えている。

テンポは全体にやや速めで、巨大な楽曲構造を一気に前へ押し出す推進力が強く、後年の静謐で沈潜した語り口とは異なる、若々しい緊張感が支配的だ。とはいえ、すでにこの時点でヴァントの本質は明確である。
恣意的なテンポ操作や感情の誇張はなく、音楽は常に秩序を保ちながら進行する。クライマックスは作り込まれるのではなく、構造の必然として到達するものとして現れる。その姿勢は、後年のNDRやBPOとの演奏に通じる思想の原点といえるだろう。

ライヴ録音ならではの熱気は、この盤の大きな魅力である。音響自体は音場は必ずしも洗練されてはいないが、その分、弦や金管の実在感、演奏の「生の力」が直接的に伝わってくる。これは、完成度よりも現場の緊張感が前面に出た記録だからこそ得られる体験だ。

この1971年の第8番は、完成されたヴァント像を示す演奏ではない。しかしだからこそ、後年の到達点を知る耳で聴くと、彼のブルックナー解釈がどのように深化し、研ぎ澄まされていったのかが、はっきりと浮かび上がる。
ヴァントのブルックナーをより深く理解するために、ぜひ触れておきたい一枚である。

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