江川三郎先生の「レコード雑巾がけ」・新レコードクリーニング法(2)

レコード「雑巾がけ」という方法について

――音をきれいにするのではなく、音楽を解放するために

レコードのクリーニングというと、多くの人は
「盤面のゴミを取ること」
「ノイズを減らすための作業」

と考えるだろう。

しかし、ここで紹介したい、いわゆる「レコードの雑巾がけ」は、その延長線上にある方法ではない。目的は単なる清掃ではなく、再生音を本来あるべき状態にすること、もっと言えば音楽を生き生きと甦らせることにある。

この方法は、かつてオーディオ評論家・江川三郎先生が提唱し、当時は「乱暴すぎる」「レコードを傷めるのではないか」と言われた。しかし、私は長年この方法を実践してきて、一度もレコードを傷めたことがない。それどころか、効果は明確で、しかも再現性が高い。
しかもシンプル!


雑巾(タオル)と水について

まず、使う布は新品ではなく、使い古されたタオルや木綿の布がよい。繊維がほどよく柔らかく、盤面に密着するものが理想だ。

水については、単なる水道水よりもぬるま湯が好ましい。これは床掃除の雑巾がけと同じ理屈で、冷水よりもぬるま湯の方が汚れを落としやすい。レコード盤面には、ホコリだけでなく、皮脂や長年の再生で付着した微細な汚れ、静電気由来の付着物などが混在している。ぬるま湯は、それらを無理なく浮かせてくれる。

布は十分にすすいだあと、できるだけしっかりと絞る
満身の力を込めて!
水が滴る状態では駄目である。


拭き方 ――「そっと」ではなく、満身の力を込めて

ここが、この方法の最も誤解されやすい点である。

多くの人は、レコードを傷つけることを恐れ、
「やさしく」
「そっと」
拭こうとする。

だが、それでは意味がない。
むしろ逆効果になることがある。

拭くときは、ためらわず、満身の力を込めて行う。もちろん、乱暴にこするという意味ではない。溝に沿って、円周方向に、盤面にしっかりと圧をかける、ということだ。
(雑巾の繊維が、レコードの溝に入り込むイメージで!)

力が中途半端だと、溝の中の汚れを“浮かせただけ”の状態になり、完全に除去されない。その結果、乾燥後にレコードをかけると、かえってノイズが増えることがある。私自身、初期には何度もこの経験をした。

おそらく、溝の奥に残った汚れが、針によって再びかき起こされるのだろう。江川三郎氏も、この点について「力が足りないと意味がない」と述べていた。

実際に正しく力をかけて拭くと、最初は盤面に明確な抵抗感がある。だが、何周か拭いていくうちに、その抵抗がすっと消える瞬間が来る。

その感触こそが、「汚れが完全に取れた」サインである。
これが大事!


レコードは思っている以上に丈夫である

この方法について必ず出る疑問が、「レコードは傷まないのか」という点だ。

結論から言えば、正しく行えば問題はない
レコードは、我々が思っている以上に丈夫である。長年、満身の力を込めてこの方法を続けてきたが、盤を傷めたことは一度もない。

むしろ、曖昧な力加減で恐る恐る拭く方が、結果として音を悪くする。


効果 ――ノイズ低減よりも重要なもの

確かに、この方法でノイズは減る。背景が静かになり、チリチリした付帯音が後退する。

しかし、私が最も重要だと感じているのは、音質そのものの向上である。

ここで言う音質の向上とは、
・高域が伸びる
・低域が出る
といった、数値や帯域の話とは少し違う。

ひとつひとつの音が、生き生きとし、立ち上がりに迷いがなくなる。演奏の特徴がより明確になり、奏者や指揮者の意図が手に取るように分かるようになるのだ。

結果として、音楽を「聴く」のではなく、演奏を理解する方向へ一歩近づく。


おわりに

この「雑巾がけ」は、派手な方法ではない。だが、アナログ再生の本質に直結した、極めて原始的で、同時に本質的な手入れ法だと思っている。

かつて「うそだ」と言われた方法が、今になって静かに受け入れられつつある。
それは、再生の精度が上がり、ようやく“違い”を感じ取れる時代になったからだろう。

レコードの音は、まだまだ良くなる。
その入口のひとつが、この「満身の力を込めた雑巾がけ」なのである。

Related Posts

None found

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP