キース・モンクスとの出会い

――レコードを「洗う」という発想がなかった時代に

いまでは「レコードクリーニングマシン」という言葉は、かなり一般的になった。しかし、40年ほど前を振り返ってみると、事情はまったく違っていた。当時、レコードの手入れといえば、盤面の埃を払うか、せいぜい湿らせた布で軽く拭く程度。それ以上のことをしている人は、ごく少数だったはずである。

私が「レコードを洗う」という発想に初めて触れたのは、江川三郎さんの記事だった。オーディオ誌の中で紹介されていたその内容は、当時としてはかなり異質なものだった。レコードに液体を使い、しかも汚れを“吸い取る”機械が存在するという。そこに登場したのが、英国の Keith Monks のレコードクリーニングマシンだった。

正直に言えば、最初は半信半疑だった。音楽を刻んだ大切な盤に、液体をかける・ブラシで洗浄など、本当に大丈夫なのか。しかし、江川さんの文章からは、単なる珍品紹介ではなく、「これは理屈として正しい」という確信のようなものが伝わってきたのを、今でもよく覚えている。


秋葉原・石丸電気にあったキース・モンクス

そして、このマシンは決して誌面の中だけの存在ではなかった。
40年ほど前、秋葉原の 石丸電気 (本店)のレコード売り場には、実際にキース・モンクスのクリーニングマシンが置かれていたのである。

いまの若い方には信じられないかもしれないが、当時は
1回100円
で、この業務用マシンを使うことができた。

お気に入りのLPを1枚持って行き、カウンターで順番を待ち、セルフサービスで操作する。独特のモーター音とともにレコードが回転し、細いアームがゆっくりと溝をなぞっていく。その先端には、一本の細い糸があり、汚れと洗浄液が次々と吸い取られていく。

実は私はその時は機械の効果に半信半疑で、またレコードをクリーニングするのにお金を払うことに躊躇してこのサービスをうけることがなかった(できなかった)。
実に残念な話である。


キース・モンクスというマシン

キース・モンクス(初代)の最大の特徴は、いまでも語り継がれている糸を使った吸引方式にある。
レコードに直接ノズルを押し当てるのではなく、常に新しい糸を介して接触させ、ブラシで掻き出した汚れを、それを即座に洗浄液と一緒にバキュームで吸い取る。

この方式の優れている点は明快だ。
同じ接触面を二度使わないため、汚れを再び盤面に戻すことがない。洗浄液も残らない。音色に余計な変化を与えない。

派手な効果音や劇的な音の変化はない。しかし、洗浄後のレコードには、確実に「余計なものがなくなった」感触がある。これは、長年多くの枚数を扱ってきて、はっきり言えることだ。


業務用として生まれた理由

このマシンが特別なのは、もともと家庭用として作られたものではない、という点にもある。キース・モンクスは、放送局やレコード工場、アーカイブ用途を想定した機械だった。音を良くするためのアクセサリーではなく、記録媒体を正しい状態に戻すための装置だったのである。

だからこそ、サイズは大きく、操作も簡単ではない。しかし、理屈は一貫している。「溝の中の不純物を物理的に取り除く」。それ以上でも、それ以下でもない。


私にとってのキース・モンクス

私自身も、30年くらい前から10年ほど前まで、このキース・モンクス(初代)を実際に使っていた。効率だけを考えれば、もっと手軽な方法はいくらでもある。しかし、大量のレコードを扱う中で、「結果が安定している」「音色が変わらない」という点において、このマシンはやはり特別だった。

江川三郎さんの記事で知り、秋葉原の石丸電気で実物に触れ、そして実際に使い続けた。
キース・モンクスは、私にとって単なるクリーニングマシンではなく、「レコードとどう向き合うか」を教えてくれた存在だったと言える。

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