ベルリン・フィル・レコーディングスという試み

Berliner Philharmoniker Recordings は、
世界最高峰のオーケストラである ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 が、自らの意思と責任によって立ち上げた自主レーベルである。2014年の設立以来、このレーベルは単なる「新しい録音の供給元」にとどまらず、現代におけるクラシック録音のあり方そのものを問い直す存在となっている。

20世紀、ベルリン・フィルはドイツ・グラモフォンを中心とするメジャーレーベルとともに、数え切れないほどの名盤を生み出してきた。とりわけカラヤン時代のスタジオ録音(DGG・EMI)は、演奏・録音技術の両面で一つの完成形を示したと言えるだろう。しかし21世紀に入り、録音環境や聴取スタイルが大きく変化するなかで、「誰のために、どのように音楽を記録するのか」という根本的な問いが、改めて突きつけられるようになった。

ベルリン・フィル・レコーディングスの大きな特徴は、その多くが実際の演奏会のライヴ録音を基盤とした録音である点にある。スタジオの中でで音を積み上げて完成させるのではなく、ホールに集った聴衆と共有された“その一回限りの時間”を、できる限り純度の高い形で記録する。そこには、ライヴならではの緊張感、集中力などが、そのまま封じ込められているのだ。

もちろん、それはベルリン・フィルの驚異的なアンサンブル能力と音色の完成度があるからこそ、演奏会録音でありながら、構築感と精度を高い次元で両立させることができる。むしろ、編集で整えられたスタジオ録音以上に、「オーケストラという巨大な楽器が一体となって鳴る瞬間」が、より鮮明に伝わってくるのが、このレーベルの録音である。

音質面へのこだわりも徹底している。マイク配置、収録フォーマット、マスタリングに至るまで、演奏会の響きを余すことなく捉えるための設計がなされており、情報量の多さ、レンジの広さ、空間表現の自然さはいずれも極めて高水準だ。
そして注目すべきは、その思想がパッケージの作りにまで一貫して貫かれている点である。

マーラー/交響曲全集の装丁

ベルリン・フィル・レコーディングスのCDやLPは、明らかに「音楽を収める器」として設計されている。厚手の紙質、精緻な印刷、写真やデザインの品位、充実したブックレット──
そこには量産品としてのディスクではなく、記録物として後世に残すことを前提とした造本思想が感じられる。とりわけLPにおいては、ジャケットを手に取り、盤を取り出し、針を落とすという一連の所作そのものが、音楽体験の一部として意識されている。

フルトヴェングラー帝国放送局(RRG)アーカイヴ 1939-45の装丁

このレーベルのLPは、単なる「デジタル音源のアナログ化」ではない。低域の密度感、ホールトーンの自然な減衰、強奏時の音の厚みと安定感など、アナログ再生ならではの魅力が無理なく引き出されている。現代録音の精緻さと、LP再生の身体感覚的な音楽体験が、極めて自然に共存している点に、このレーベルの成熟がある。

ベルリン・フィル・レコーディングスが記録しているのは、「いま、この瞬間のベルリン・フィルは、どう鳴っているのか」。その問いへの最も誠実な答えが、これらの録音であり、そしてその音楽は、装丁を含めた“作品”として提示されている。
ベルリンフィル・レコーディングを手元に置くことは、演奏を聴くだけでなく、オーケストラの現在を、物として所有する行為とも言える。

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