レコードクリーニングとは何か
――「拭く」ことではなく、「音楽を蘇らせる」こと
「レコードクリーニング」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるであろうか?
おそらく多くの方は、再生前にレコード表面のホコリをブラシで払う、あるいはクロスで軽く拭く――その程度の行為を想像されるかと思う。
しかし、私は長年レコードショップを営み、毎年数千枚単位のLPを実際に扱ってきた経験から、断言する。
それだけでは、レコードはほとんど「きれい」にはなってはいない。
もちろん、目に見えるホコリを取り除くこと自体は無意味ではない。再生時のノイズ防止や、針先の保護という意味では一定の効果あるであろう。ただしそれは、あくまで「気分的な安心」に近いもので、音そのものを大きく改善する効果は、正直に言ってほとんど期待できない。
では、私が考える「レコードクリーニング」とは何か。
それは、
LP表面、そして溝の奥深くにはじめから、あるいは長年蓄積された不純物を徹底的に取り除き、レコード本来の情報を再び引き出すこと
にほかならない。
LPレコードには、数十年という時間が刻み込まれています。前の所有者の再生環境、保管状態、室内の空気、煙草のヤニ、皮脂、洗剤成分、カビ、そして目には見えない微細な粉塵など――そうしたものが、溝の中に層をなして残っている。
これらは、単に表面を拭いただけでは決して除去できないのだ。
そして重要なのは、これらの不純物が確実に音を劣化させているという事実。
音の立ち上がりが鈍くなる、弱音の表情が失われる、響きが濁る、定位が甘くなる。こうした変化は、決してオーディオ的な誇張ではなく、適切なクリーニングを行った後には誰でもはっきりと認識できるものだ。
私はこれまで、
「このレコード、こんな音だったのか」
「買ったときとは別物ですね」
という言葉を、何度もお客様から聞いてき。クリーニング後の音の変化は、時に演奏の評価そのものの印象すら変えてしまうほどなのだ。
つまり、レコードクリーニングとは単なるメンテナンス作業ではない。
音楽体験そのものを、より深く、より感動的なものへと導く行為なのだ。
このブログでは、そうした視点からレコードクリーニングについて、私の見解を数回に分けて詳しく書いていきたい。
クリーニングによって実際に何が変わるのか。
なぜ「正しい方法」と「そうでない方法」とで結果に大きな差が出るのか。
どのような道具が有効で、何に注意すべきなのか。

長年、商品として、そして音楽としてレコードと向き合ってきた立場から、理屈だけでなく実体験に基づいてお話ししていきたい。
レコードを「ただ鳴らす」のではなく、
音楽をより深く味わうために。
その第一歩としての「レコードクリーニング」について、ぜひお付き合いいただければ幸いです。

クラシックレコード専門店・(株)ベーレンプラッテ 代表取締役
1961年新潟生まれ。
10代からクラシック音楽やオーディオをこよなく愛し、大学・大学院では建築音響を専攻(工学修士)。修了後は、ホールやオーディオルームなどの設計・施工などに従事。2002年からは、輸入クラシックレコード専門店であるベーレンプラッテを立ち上げ現在に至る。
年数十日はヨーロッパ(オーストリアやドイツなど)で過ごし、レコード買い付けや各地のコンサートホールやオペラハウスを奔走する毎日を送っている。
アナログ(音元出版)や放送技術(兼六館出版)などの雑誌にも多数寄稿。
クラシックレコードの世界(ミュージックバード)などの番組でも活躍。
五味康祐のオーディオで聴くレコードコンサート(練馬区文化振興協会)講師。
ウィーン楽友協会会員
ベーレンプラッテ
店主やスタッフたちが、直接ヨーロッパで買い付けをした良質なクラシックレコードのみ扱う専門店。
また、店舗でも使用している店主たちが厳選したレコードケア用品(クリーニングマシンやオリジナル内袋など)も販売中。
<公式SNS>
Facebook:ベーレンプラッテ
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