ギーゼキング最後の録音(モノラル編)

ワルター・ギーゼキングが残したベートーヴェンのピアノ・ソナタ録音の中で、第15番「田園」(Op.28)は特異な存在である。この作品は、第3楽章までしか録音が残されていない未完の記録であり、しかもそれが彼の生涯最後の録音セッションに属するという点で、他のソナタとはちょっと別の意味を持っている。

ベートーヴェン/ピアノソナタ「葬送行進曲」&「田園」(第三楽章まで)
ワルター・ギーゼキング(ピアノ)
英Columbia 33CX1603

ギーゼキングは1950年代前半、Columbiaにおいてベートーヴェンのソナタを録音(全集として完成を目指したかは不明)した。「田園」が録音された1956年は、彼の急逝の年であり、体調の悪化が深刻だった時期でもある。
彼は、「田園」ソナタの第3楽章を録音中(10月23日)、そこで猛烈な腹痛を起こし、急性膵炎と診断されることになる。手術は成功したものの、術後の経過が悪く、4日後の1956年10月26日にあっけなく息を引き取きとった。
このセッションは途中で中断され、第4楽章のロンドはついに録音されることなく終わった。
したがって、本盤に収められた「田園」は、結果としてギーゼキングのベートーヴェン解釈の最終到達点を示す遺稿となった。

同時に録音された第12番(Op.26)「葬送」も、本盤の性格を明確にする重要な要素だ。葬送行進曲を含むこのソナタにおいても、感情の誇示はなく、形式の内側から音楽を照らし出す姿勢が貫かれている。両曲は、ギーゼキング最後のベートーヴェンが到達した静かな境地を、聴き手に示してくれるのだ。

このLPは、単なる「未完録音」ではない。それは、ギーゼキングがベートーヴェンと向き合った最終章を、そのまま封じ込めた歴史的記録である。語りすぎることなく、静かに終止符を打った——その事実こそが、この一枚に比類ない重みを与えている。

ベートーヴェン/ピアノソナタ第12番「葬送行進曲」・16番「田園」(第三楽章まで)
ワルター・ギーゼキング(ピアノ)
1956年10月録音

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